Smily Books Blog 2023年7月更新中

隣の成果主義 溝上憲文(光文社)

1.経営者は「成果主義」をやめる気などさらさらない(It's Unstoppable!)
(1)成果主義(performance-based pay system)
・日本では3年間で行う段階的導入が多い。
・当初は導入賛成多数だが、3年目で反対が多くなる。
(2)年功序列型と成果主義型の決定的な違い
①評価する期間の長さ(年功序列:10〜15年、成果主義:2〜3年あるいは1年)
②具体的な成果(実績)に現れない能力主義と成果(実績)でのみ評価する成果主義
・導入と意図する側の罠(trap)に陥り、ことの本質(nitty-gritty)を見誤らないこと
・能力主義の評価項目が年齢と共に自然と身につく知識・経験的な項目が多いため、
 結果的に能力主義=年功序列となっている
・一度身につけた知識・経験的な能力は衰えないという考え方であれば、降格(demotion)もありえない
・日本型社会(高年齢化)において年功序列の給与体系では人件費は増大の一途をたどる

2.制度自体に設計ミスの多い「日本型成果主義」(Design Errors)
(1)旧制度を並存させた「折衷型成果主義」
旧: [給与]=[資格給(能力給)]+[本給(年齢給)]
新: [給与]=[資格給(能力給)]+[業績給]
・能力給が年齢給に近い固定給として運用されている限り、降格(disqualify)はあり得ない。
・業績給も過去の給与をベースに決定することが多いため、
 先輩/後輩間の給与逆転となるような大きな格差は生まれない。
(2)「目標管理制度」(MBO=management by objective)の運用失敗(富士通の失敗例)
・社員の多くが達成しやすい目標(easy goal)を設定
・公平な目標管理能力のある管理職の不在
・無意味な定量値(ミーティング回数、顧客訪問回数など)によるプロセス評価
・権限と責任のない管理職(課長)に目標管理による数値目標(numerical target)を求めた
(3)評価の不正行為(foul play)
・格差をつけたくない場合
 部下に疎まれたくないという評価者の心理
・格差をつけたい場合(特定の部下のみ昇進させたい場合)
 あらかじめ評価点数に達するよう逆算して評価点数を調整する
・異動が決まった部下の評価を極端に下げる
 部署の人件費原資を残った部下に分け与えたいため

3.”無能な評価者”が成果主義を崩壊させる(Unfair Evaluation)
(1)理想は360度評価(部下の上司評価による上司降格もあり得る制度)
・上司と部下が談合し、正しい評価不能とならないような仕組みが必要
・社長以下全社員導入し、誰がどんな評価をしたかは通知せず、評価結果のみ通知する

4.サラリーマンの給与は今後10年間で確実に3割下がる(Salaries Fall Further)
(1)日本の給与水準(pay average)は全体では欧米より3割高い

(2)現金給与総額は1997年をピークに減少(厚生労働省「毎月勤労統計」従業員30人以上の企業対象)

5.各社はこうやって「賃金格差」を拡げている(Spread of Pay Difference)
(1)現在のデフレから高度経済成長期のようなインフレ転換はあり得ないため、全体原資減少への施策として、”成果主義”というツールにより賃金格差をつける
(2)定昇/諸手当廃止により、成果のみによる賃金格差が広がる

6.公務員にも押し寄せる「成果主義」の波(The Wave Over Public Officials)
(1)日本郵政公社の新人事制度
・過去3年間の実績が求められている役職の責務に達していない場合、「レッドカード」(降格)対象
・昇任志願制(volunteer system)により、本人に選択させる(筆記による実技結果より本人アピールによる面接重視)

7.成果主義の「理想型」は存在するのか(Where is a Perfect System?)
(1)「日本型年功制」のメリット
・社員への動機づけ(work motivation)として「金銭的報酬」でなく「次の仕事の内容」で報いる
・昇進(よりレベルの高い仕事)(promotion)と昇格(金銭的報酬の増額)(upgrade)の分離による恊働(collaborative work)の維持
(2)職能給運用のむずかしさ
・求められる能力の多様化に職能区分が追いつかないため、経験値(年功的処遇)で測る要素が増加せざるを得ない
(3)「人事報酬委員会」の導入
・社長を委員長とする「人事報酬委員会」で人事評価結果への不満調整実施(日興コーディアルグループ
(4)各人の目標設定値の情報開示
・匿名により全社員もしくは自分と同じレベル社員の目標値を開示

8.「成果主義」と共存するか、戦うか(Peace or Battle?)
(1)評価を上げるための”姿勢”とは
・誰もが驚くような仕事を1つで良いので達成する(ただし、着手前に上司へ事前連絡必要)
・定型業務では納期厳守とする
・突発的な雑務も”快く”引き受ける
(2)成果(結果)の出せる人とは
・仕事(命題)に対して自分なりの仮説を立ててから取り組む
・すぐにやる(Do it right now.)、手際良くやる(Do it well.)
・どのような考えで取り組んでいるかを逐次説明、報告できる