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ビジネス交渉術―成功を導く7つの原理 マイケル・ワトキンス(PHP研究所)

1.交渉の状況を診断する
(1)交渉当事者
 ①打ち合わせに誰を参加させたらよいか事前にイメージしておき、有効な当事者を参加させる
 ②交渉相手への直接質問や関係者への相談などにより、間接的な情報(関係者や関連技術)も含め、交渉に関連した全ての相手を識別する
 ③複数の交渉相手に対し、どんな形で(個別、合同)どんな順序で話し合うべきか検討する
(2)規則
 ①交渉に関連し、適用される法律、規則は事前に把握しておく(有利な立場が築ける)
 ②交渉相手に影響を与える慣習、行動規範も理解しておく
(3)問題点
 ①問題点(=交渉相手との協議事項)は交渉の流れによって刻々と変わるものと心得る
 ②問題点の範囲を相手が決めている場合、不明確な単純思考で見落としがないかどうか調査する
 ③交渉相手との関係自体が問題かどうか査定する(これから関係を構築する段階なのか、既に起きてしまった紛争解決の段階なのか、など)
 ④合意が非常にむずかしい問題は、他への影響がないうちに早期解決しておくのが理想的
  →通常は、相手との信頼関係がどこまで発展したら交渉するのかを決めておく
(4)利害
 ①共通利益を見つけ出し提案する
 ②早期に強硬な立場をとらない
  →お互いの利害を分析する時間を作った方が、お互いのパイを大きくすることができる可能性が高いため
 ③お互いの利害の違いを明確にする
  ・時間間隔の違い(結論を急いでいるかどうか)
  ・リスクに対する考え方
  ・将来への期待
 ④相手との信頼構築のために、不測の事態にどうするかを保証してやる
  ・不測の事態における解決の仕組み提供
  ・監視体制の設立
(5)代替案(ある交渉合意における最良の代替案)
 BANTA:Best Alternative To a Negotiated Agreement
 ①BANTAだけでなく交渉中止点(ここまできたら交渉を中止するという基準)も定めておく
 ②BANTAには「何もしないこと」もあることを忘れないこと
  →その間に自分のBANTAを改良する時間が確保できるメリットがある
 ③合意に至らない場合、相手が何をするかを予想しておく
(6)合意
 相手の利益やBANTAは不明確であることが多いため、合意に至るには適切な質問が重要
 →実際の取引の前に共通の不確実性を考慮したシナリオを用意しておく
(7)連結
 通常の交渉は、交渉相手以外の関連者との結びつきがあることに留意する
 ①個々の問題点
  個々の結びつきが敵対的連結(競合など)になっていないか確認する
 ②時間的な連結
  ・順序性:早期の交渉が後期の交渉に影響を与えないかどうか、未来の(予定)交渉が現在の交渉に影響しないかどうか
  ・並列性:交渉相手が同時に、または重複した時に問題が起きないかどうか

2.交渉の構造をつくる
(1)枠組み(潜在的な解決策の仕掛け)を早期設定する
 ①交渉相手が選択の必要に直面するような具体的な問題を浮かび上がらせる
 ②交渉相手が状況を理解するときに用いる理論的枠組み、モデルを明示させる
(2)情報の管理
 ①情報を選択的に提供する(誰にいつ、どんな情報を提供するか、あるいは保留するか)
 ②情報伝達方式(交渉相手の情報伝達を促進させる、あるいは阻止する)
(3)交渉プロセスの順序計画
 ①最も束縛している制約を緩める交渉を最優先とする
 ②交渉結果に最も強い利害を持つ関係者と契約合意を確定する
 ③外部制約となっている関係者(例えば銀行などの金融機関)に相談し、制約条件を明確化する
 ④同盟してくれそうな相手と試験的交渉により連合を作りはじめておく
 ⑤競合相手との連結交渉はできる限り長く保留(時間稼ぎ)する
 →同様の順序計画を交渉相手も練っていると考え、こちらの破壊工作に対する準備も整えておくこと

3.交渉プロセスを管理する
 交渉中に3つの視点を意識して、交渉相手の心理状態を注意深く観察すること
(1)巨視的流れの視点(どのような姿勢で交渉に臨むのか準備しておく)
 ①関係構築(修復)段階:第三者を参加させるなど参加メンバの厳選が必要
 ②方策提案段階:より多く合意できるように協議事項の幅を広げる合意の枠組み提案が必要
 ③詳細交渉段階:忍耐と目標を見失わない力が必要(個別交渉は担当同士でもよい)
(2)微視的相互作用の視点
 ①いかに交渉を開始するか(初期の交流における文化的、社会的規範への感度交換、気配り)
 ②不可逆性
  ・信頼関係を壊すような行動により関係が悪化すると元には戻らない
  ・ささやかな、しかし後戻りできない約束を相手から取り付ける(小さな約束から大きな約束へ)
 ③転換点
  交渉内容が限界に近づくと些細な条件でさえ大きな変化が起きる
  ・転換点にどの程度近づいているかを認識することが重要
  ・転換点に近づいたら一歩退くという戦略は有効(冷静になるために休憩をとるのもよい)
(3)心理プロセスの視点
 ①メンタル・モデル
  交渉相手のメンタル・モデルと自分が説明に使う枠組みが融和するかどうか
 ②動機となる原動力
  以下の点が交渉相手の原動力となっているかどうか、交渉の中から推測する
  ・支配権の維持
  ・権力の行使
  ・評判の維持
  ・一貫性の維持(約束や主張が一貫性を保つことに関心を持つ)
  ・人間関係の維持
 ③目標
  ・人の心は絶対値でなく相対値で変化する(=主観的な基準、目標)
  ・一定の(絶対的な)利益を得るためよりも、過去と同等の(相対的な)損失を回避するために交渉する
  ・最初から完全な情報入手はできないため、交渉の席で交渉可能範囲と相手の目標を知りつつ、自分の目標を修正する
 ④感情
  感情的にならず、人と問題は分離して交渉すること

4.交渉戦略を立案する
(1)学習
 相手の目的が何であるか仮設を立てるために、同じ質問を異なる形で尋ね、返事から三角法で導き出す
(2)認知(パーセプション)の形成
 交渉相手の強固な姿勢のままでは合意できないこと、柔軟な姿勢が双方のニーズを満たすことを確信させる
 ①うまく折り合いをつけることが交渉相手の評判、権力に何ら影響を与えないことを納得させる
 ②相手の交渉範囲がどれくらいかわからない場合、強気な提案(ただし交渉決裂には至らない程度)で推し測ってみる
 ③自分の譲れない点を相手にはっきり示したい場合、はじめに大きな譲歩をした後に段々と譲歩幅を狭めることで意思表示できる
 ④脅し、警告を用いる場合、その信憑性がないと意味がない(信憑性があっても、裏目に出て抵抗が強まることもあるので要注意)
(3)基本的緊張状態の処理
 ①通常はお互いに情報を与えたり与えなかったりして、互いに相手の認識を自分有利に方向づけしようとする(駆け引き)
 ②相手の情報が少ないほどより多くの質問をしなければならず、結果的に相手から認識の操作をされやすくなる
(4)交渉の型
 ①完全分配型
  互いの価値が独立している場合、それぞれの価値を要求した結果、価値が双方に分配される
 ②共同分配型
  双方の利益が大筋一致している場合、互いに情報提供し、共同の価値創造の選択肢を検討することになる
 ③統合的交渉
  ①、②の混合であり、価値創造と価値主張があるため、最もタフな交渉となる
  →早期に交渉打ち切りライン、妥協点は明確にせず、徐々に相互の情報提供を行うこと
  →情報提供に対する見返りの量と信憑性を検討すること

5.きっかけをつくる
 きっかけ(はずみ)をつくるアプローチ
(1)関係を築く
 関係構築あるいは修復をまず行うこと
(2)交渉プロセスを話し合う
 ①いきなり論争の本質を話してはいけない
 ②どのように交渉していくかの擦り合わせにある程度時間をかけ、協議事項(何を話し合うか)までを決めること
 ③②によりお互いにどこまで達成したがっているかがわかる
(3)構造を変える
 交渉相手の認識構造を変える
 ①柔軟な姿勢へ向かわせるための脅し、警告
 ②共同利益の可能性強調
 ③別条件の提示(心構え)のほのめかし
 ④交渉範囲の変更提案
(4)仮説を検証する
 交渉相手の根底にある目的をできる限り確かめる(質問)
(5)打開策を見出す
 有効な打開策を複数提案
(6)緊迫感を生む
 合意(あるいは決裂)に向かう交渉最終段階には波乱が多く、膠着状態、突発的な前進をはさみながら停滞期間をともなう

6.相手の認識の方向づけ
 交渉中に展開する悪い結果を招きそうな争点は多数のレベルで意識して適切な対策をとること

7.交渉結果を評価する
 交渉中でも自己評価すること
(1)その状況に対する明確な考え方(答えではなく)を持つこと
(2)争点となる協議事項は常にまとめて直しておくこと
(3)交渉の流れを円滑にすること
 ①自己は積極的な行動ができる流れ②交渉相手は難しい選択を迫られる流れ
(4)適切なタイミングで適切なプロセスを行っているか
 今、どの局面(認知、きっかけなど)であり、合意に向けはずみがついているかどうか

8.大きな相手と交渉を行う原理
(1)いちかばちか(オール・オア・ナッシング)の取引は行わないこと
 単一の強い交渉相手のみをあてにすると、依存から吸収、消滅の可能性あり
(2)相手を縮小化する
 ①大会社は分権化する傾向があるため、交渉の主要な目標が達成できる相手とだけ交渉すること
 ②複数部門から承認が要求されるような取引交渉はしないこと
(3)実施を念頭において交渉する
 合意することと、それを実行させることは別問題である
 →例えば、共同運営委員会による公式な監督構造を形成し、合意事項を履行させる

9.連合を築く
(1)利害関係を把握する
 誰を説得する必要があり、どう説得するかを確認する(=相手の選択肢を見極める)
(2)利害の認識を具体化する
 相手が望んでいることを操作する
(3)代替案に関する見解の方向づけ
 相手が取りうる選択肢を操作する
(4)厳しい決断を容認させること
 相手が困難な選択を受け入れる方向にうながす
(5)幅広く説得する
 集団を説得して広範囲にわたる効果を得る
(6)決断の枠を作る
 議題にのせる提案、問題を増やすことで相互に利益のある取引を行う(パイを大きくする)
(7)「何もしない」という選択肢を排除する
 相手が決断するための論理的根拠のある選択肢を提案する

10.対立を管理する
(1)党派的認知バイアス
 対立が激化すると、利害関係者同士がそれぞれ相手に対する偏見が生まれ、以下の傾向を伴う
 ①相手に偏見があるにもかかわらず、自分自身は客観的だと信じている
 ②反対勢力の動機を見誤り、過小評価する
 ③反対勢力との違いを過大評価する
(2)消極的な評価
 相手が自分の事を信頼していないと、実態より低く評価されてしまう
(3)集団的思考
 対立が激化すると、利害関係者同士は精神的に結束する分、対立側とのコミュニケーションは希薄となる
(4)第三者(介在者)に必要な3つの力
 ①推進力(仲裁者)
  ・会話の増加と形成:両者の会話のきっかけ作りや共通点取り上げによる会話レベルアップ
  ・行動への強制:議論の後で両者の仲裁を反古にするか、妥協するか考える
  ・両者の立場の評価:問題解決に向かうように両者を批判する、あるいは希望を投げかける
  ・創造的な選択の提案:両者にメリットのある交換条件を提案する
  ・怒りと非難の吸収:互いの対立相手に抱く怒りや非難を吸収し、ストレスを発散させる
  ・保証人としての役割:両者の協定事項を見届け、合意保証する
 ②強制力(調停者)
  直接的な威圧を行うよりも間接的な強制力を行使する(当事者でなく関係者を煽りながら脅す)
 ③交渉力(交渉者)
  当事者のパイを大きくするような助言をして合意を導く
(5)シャトル外交
 ①両者の共通レベルの問題認識不足や合意しない場合何が起きるのかわからない場合用いる
 ②個別の問題とその解決案の理解を深めておくことができる
 ③合意に前向きな参加者から実施し、他の参加者の意思を伝達しておく