Smily Books Blog 2023年7月更新中

哲学思考トレーニング 伊勢田 哲治(ちくま新書)

1.クリティカルシンキングとは
 お互いの議論の中で情報の質を高める共同作業
 →お互いの言っていることを理解する協力的な作業

2.クリティカルシンキングの手法
(1)議論の明確化
 まず全体としての結論を探す
(2)前提の検討
 結論を出す理由(前提)を複数取り出す
(3)推論の検討
 推論の流れ(接続詞の使われ方)をはっきりさせる

3.行間を読んで議論を再構成する
 思いやりの原理(principle of charity)
(1)相手の議論を筋の通った形に組み立てなおしてみる
(2)暗黙の前提を洗い出す
 
4.仮説の立て方
(1)反証可能な形で仮説は立てる
(2)仮説を立てた後は、できる限り反証しようと試みる

5.思考実験
 架空の状況を想定して議論を行うこと
 →暗黙の前提を洗い出すのに有効

6.方法的懐疑の利用法
(1)方法的懐疑
 疑い得るものには全ていったん判断を停止し、絶対確実に真だとわかるものだけを受け入れる
(2)クリティカルシンキングへの応用
 方法的懐疑を確実な情報を確立することに固執すると失敗する
 確実な情報とあやふやな情報のより分けする際の基本的考え方として方法的懐疑を利用する
(3)暗黙の前提の洗い出し方
 結論になって初めて出てくる名詞や動詞を使った推論かどうか確認する
 →明示されていない前提が存在する
(4)文脈主義の考え方
 極端な二分法(経験的な証拠による前提を全て否定する、あるいは逆に全て肯定する)を避け、生産的なクリティカルシンキングを行う
 結論を一つの文脈にせず、いくつかの独立した文脈を並行して存立させてもよい

7.価値主張
(1)言葉の意味を明確にする
(2)事実関係を確認する
 意見対立している二人でもよく論じ合うと基本的価値判断は一致している場合がある
(3)同じ理由をいろいろな場面にあてはめる(普遍化できるかのテスト)
(4)出発点として利用できる一致点を見つける
 既に一致しているところ以外で不整合が生じたら、できるだけ無理の少ない方向に修正を加える
(5)価値観の違いの摺り合わせ方法
 価値観の相違を調停する場合、手続き的正義(例えば民主主義社会の多数決の論理)で解決する

8.自動車と飛行機どちらが安全か
(1)年間死者数は自動車が多い(自動車:9066人、飛行機:9人)
(2)年間移動距離は飛行機が多いため、移動距離を加味した事故死亡率で判断することが必要
 ①自動車の事故死亡率:9066人/9512.5億キロ=0.95
 ②飛行機の事故死亡率:9人/797億キロ=0.01
 →自動車のリスクが約100倍高い
(3)過去20年間(1983〜2002)の平均で考える
 ①自動車の事故死亡率:1.11
 ②飛行機の事故死亡率:1122人/11490.5億キロ=0.09 
 →自動車のリスクが約10倍高い
(4)自動車に巻き込まれて死ぬ人(乗車していない人)は除外すると
 →自動車の事故死亡率:0.42(乗車していた人の死亡者数:3953人)
(5)輸送人員(延べ何人が移動したか)まで考慮すると自動車と飛行機のリスクが逆転する
 ①自動車の年間移動人数:628.4億(日本人一人一日あたり約2回自動車を利用)
 ②飛行機の年間移動人数:0.9億(日本人一人年間で約1回飛行機を利用)
 →一回利用する毎の事故死の確率は
  ①自動車の事故死確率:3953/628.4=6.3(1億回利用すると約6回死ぬ)
  ②飛行機の事故死確率:9/0.9=10(1億回利用すると約10回死ぬ)